推薦入試のメリット
工業高校や商業高校、農業高校などの専門高校から国立大学への進学をめざしている人の受験方法としては、多くの場合が推薦入試なのではないでしょうか。
私自身、国立大学に推薦入試で合格していますので、そのメリット・デメリットは理解しています。
本日は、推薦入試で国立大学に進学することのメリット・デメリットを考えてみたいと思います。
特に高校1年生の人など、これから勉強を始めようと思っている生徒さんや保護者の方に見ていただきたいと思います。
まずはメリットについてです。
工業高校を例にして話をしたいと思います。
一般論で言って、国立大学の推薦入試を受験しようと考えている工業高校生は各学科の学年1位をはじめとする上位層であると考えられます。
専門高校枠の推薦であれば、評定平均が高くなければならないのが一般的でしょうから、結果的に学年上位層が、推薦入試を受けることになるわけです。
例えば、学年1位であれば、人によってはその学校で「敵なし」というぐらいの学力がある場合もあるのですが、その学力が他校に対しても通用するのかというと、それは別問題です。
国立大学に入学してくる学生のほとんどは、普通科高校卒の人です。
その中でも、多くの学生は各都道府県のトップレベルの進学校卒です。
推薦入試のメリットは、このような進学校の人たちとは別枠での入試になる可能性がある(推薦入試の種類によって違います)ということです。
専門高校枠での推薦入試であれば、専門高校生同士の勝負になりますので、それだけ合格の可能性が高まるわけです。
メリットは多くの人たちが考えているとおりです。
推薦入試のメリットと言えばそういうことになるわけですが、今回見ていただきたいのは、実はデメリットの方です。
共通テストを課さない推薦入試もある
ここから先は大変失礼な話になってしまう部分がありますので、先に謝っておきたいと思います。
申し訳ございません。
さて、工業高校(学年上位)の5教科の実力が普通科高校(進学校)の人と比べて、どの程度あるのかというと、一般論で言えば、そのレベルは高くありません。
もし、推薦で国立大学に合格した工業高校生が一般入試で受験していたとしたら、そのほとんどの人が不合格です。
ただし、推薦で合格する工業高校生の中に、進学校卒の学生もびっくりするほどの、非常に学力が優秀な学生がいることも事実です。
さて、私と同じ学科に、他にも専門高校卒の推薦組はいましたが残念ながら一般入試で合格できる成績ではないレベルでした。
推薦入試による合格によって国立大学で学んでいた者として考えると、あくまでも私のイメージですが、専門高校枠で合格した工業高校生の中で、実際に一般入試で合格できそうな学力のある人は、今の工業高校生で考えると5人に1人か6人に1人ぐらいの感覚です。
もしかすると、もっと厳しい可能性もあります。
昔の工業高校生、例として私の時代(今から25年以上前)の工業高校生で考えると、4人に1人か、もう少し合格者が多いぐらいだと思います。
これを見ると、「推薦で合格した工業高校生の5教科の学力は、今の工業高校生よりも昔の工業高校生の方が高いということ?」と思いますよね。
失礼ながら、この答えは「はい」ということになると思います。
しかしながら、勘違いしないでほしいのは、今の工業高校生が勉強をしていないから悪いと言いたいのではなく、推薦入試の制度の問題だと思います。
今の工業高校生が受験する「国立大学の推薦の試験内容」を見ると、大学入学共通テスト(以前でいう大学入試センター試験)を課す場合でも、2科目や3科目の学部学科が多い印象です。
この2~3科目に、面接、小論文・調査書というパターンはよく見ますね。
また、学部学科によっては、共通テストは課さずに、面接(口頭試問)・小論文・調査書だけの場合もありますし、すべての大学を見ているわけではありませんので、もしかすると数学や物理、英語の口頭試問すらないところもあるかもしれません。
もしかすると多くの人が共通テストを1科目も受験していないかもしれません。
私が国立大学を受験した時の推薦入試の試験内容は、大学入試センター試験5教科5科目、面接、小論文・調査書でした。
2~3科目と5科目だとあまり変わらないんじゃないのと思うかもしれませんが、その違いは大きいです。
2~3科目だと自分の得意分野(理系であれば理系分野)しか受験しない場合が多いのですが、5科目だと「国・社・数・理・英」と理系科目から文系科目までまんべんなく勉強しなければなりません。
限られた時間内で、苦手科目もしっかりと勉強し、進学校の学生と共に勉強できる成績がなければ不合格ということになります。
高校生時代に勉強していない科目が多い場合には大学に合格してから、かなり苦労することがあります。
例えば、専門書を読むにしても読解力が必要になります。
国語の受験勉強をしなくても、日ごろ本を読んでいるから問題ないと考える人もいるかもしれませんが、進学校卒の学生が本を読んでいないわけではありません。
本を読んでいて、なおかつ難しいレベルの国語の受験勉強をしているのです。
読解力や読解のスピードに違いが出てもおかしくないですよね。
推薦入試のデメリット
推薦入試は定員まで合格者を出さない場合もあります。
仮に定員5人だったとしても、学力的に合格を出せる成績の人が3人しかいなければ3人しか合格できません。
昔は、多くの大学が推薦入試にもセンター試験を受けさせることで、しっかりと点数として結果を出していたのかもしれません。
学力的に合格を出せる・出せないがわかりやすく、不合格者も多かったのかもしれませんね。
参考までに、私のセンター試験の点数は5教科5科目で7割弱ですので、レベルとしては一般入試で国立大学に合格できる点数です。
もちろん、科目が足りていないですし、二次試験も受けていないわけですので、実際に一般入試で合格というわけにはならないのですが、これは当時の推薦入試の試験内容が5教科5科目だったので、私としてはどうすることもできません。
しかしながら、進学校卒の学生たちを抑えて、国立大学のコースを首席(1位)で卒業していますので、高校3年生の当時、一般入試で受験していたとしても合格していたと思います。
そもそも首席を取るのは、単位数の関係上、大学1年生の入学時から他者より好成績でないと取れません。
つまり、工業高校卒の学生にありがちな「大学の講義についていけるかどうか不安だ」というレベルではなく、大学1年生の4月の時点で、後に同じコースに進む偏差値70前後の進学校卒の学生の中で、トップレベルでないといけないということです。
なぜそれが可能だったのかというと、いくつかの理由があるのですが、その中の一つは、推薦入試にセンター試験が5教科5科目課されていたからです。
センター試験を受けないと合格できない関係上、どうしても勉強しないといけなかったわけです。
そして、勉強しているうちに、いつの間にか進学校卒の学生のレベルと同等またはそれ以上になったということです。
ある意味、専門高校卒で大学に進学する今の学生たちは、かわいそうな面があると思います。
推薦の試験内容は大学側が決めるわけですので、面接と小論文だけの試験と言われれば、どうしてもそちらの内容ばかりの対策になってしまうと思います。
推薦で合格できるか・できないかわからない段階で、合格した後を想定して、「5教科の勉強を、せめて共通テストレベルでしておこう」と思う高校生がどれほどいるでしょうか。
まずは合格するための対策に力を入れるのが当然であり、合格した後のことを考えるのは無理があるかもしれません。
その時間があるのだったら、面接・小論文対策に力を入れたいと考えるのが人間でしょう。
合格することが最優先ですから。
もし私が、その立場であったら、間違いなく面接と小論文に力を入れますし、共通テストを受けずに合格できるのであればラッキーと考えると思います。
当時、そのような試験であれば、センター試験で7割弱は当然取れないですし、コースの首席になることもなかったでしょう。
多様な人材を入学させ、活性化を図ることは大切なことですし、5教科の科目だけが勉強ということではありません。
専門高校卒の学生は、高校時代に専門科目を学んでいるわけですので、大学の専門に入ってからは理解しやすい面もありますし、場合によっては、実習などで他の学生より有利な面もあるかもしれません。
しかしながら大学1年生ではいわゆる教養科目が中心ですので、専門科目に到達する前に、数学・物理・英語など単位が取得できずに残念ながらやる気をなくしてしまう学生もいます。
最悪の場合には留年や退学の可能性もあるでしょう。
だからこそ、大学で進学校卒の学生と共に勉強できるようなレベルにしておかなければならないのですが、残念ながら推薦の試験内容を見ると共通テストを課さない場合もあることから、対策が難しくなる人もいるでしょう。
以前から、一部の私立大学では、推薦入学者に入学前の課題(宿題)が出るという話を聞いたことがあったのですが、この課題(宿題)が国立大学でも出されているということを知りびっくりしました。
本当なのだろうかと思って、大学のホームページを見てみると、確かに課題(宿題)が出されていました。
また、高校時代に学習していない分野について、大学で補習のような授業で対応しているところもあるようです。
国立大学でも入学前の宿題が出されたり、補習が行われている大学があることに驚きました。
しかしながら、推薦入試での共通テストの利用科目数が少ないことを考えると、こうなるのは必然なのかもしれません。
学年1位だとしても学校の成績は当てになりませんから・・・
個人の学力によって宿題が出たり、補習があったりするのか、それとも学力に関わらず全員なのかわかりませんが、私の大学には当時そのようなものは一切なく、合格した時点で進学校卒の学生とまったく同等の講義を受けていました。
おそらく、一緒に合格した他の専門高校の人もそうだったのだと思います。
高校時代に学習している・していないは関係なく、数学Ⅲ・Cが絡む分野だろうが普通に講義していますし、個人的には難しいと思う内容ではありませんでした。
それだけの勉強をしてきましたし、そのレベルの講義をこなせるかどうかをセンター試験で見ているわけですので、合格者は講義を普通に理解できて当然と言えば当然です。
このようなことを総合的に考えると、先ほど話したとおり、推薦入試の制度の関係上、誠に申し訳ないのですが、国立大学に専門高校枠の推薦入試で合格した工業高校生で考えると、昔の工業高校生の方が学力が高いと思うわけです。
調査書や面接などを重視することによって、これまでいなかったユニークな学生が入学してきたりするのは良いことでありますし、多くの大学で推薦合格者が増えていることは必ずしも悪いことではないのかもしれませんが、合格者が入学後に苦労しないためにも、私としては推薦入試にも、せめて5教科5科目の共通テストは課した方がいいのではないかと思うのですがいかがでしょうか。
専門において独創的な発想を発揮する前に、まず教養科目の講義についていかないといけないことを理解しておかなければなりません。
ある一定の数で、共通テストの点数にとらわれない入試制度により合格者を出すというのは、現代型の考え方であり、確かに良い効果もあると思いますが、入試時点では点数は関係ないよと言いながら、大学入学後は講義の点数が低いと単位はあげられませんというのであれば、なかなか厳しいものがあるわけです。
例えば、共通テストの点数を考慮しない入試方法で入った学生は、点数以外のところを評価して合格できたのでしょうから、大学入学後も点数以外のところを見て成績を決めるのであれば、一貫性もあると思うのですが、現在はそのようにはなっていないですよね。
そう考えると、共通テストの科目数が少なかったり、そもそも共通テストが課されない推薦入試は本当にラッキーだと言えるのでしょうか・・・
大学入学前にメリットと思っていたことが、大学入学後にデメリットに変わらないように勉強に励んでもらいたいと思います。
みなさんはどう考えるでしょうか。